人間が利用する自然言語を理解し、適切な応答を作成する自然言語処理は、人間の活動をサポートするAIの実現のために欠かせない技術です。近年では自然言語処理をベースとした生成AIにより、AIの活用領域も広がっています。
今回は、自然言語処理について詳しくご紹介します。
自然言語処理(NLP)とは
自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)は、コンピュータが人間の言語を理解し、生成する技術のことを指します。自然言語処理によりコンピュータはテキストや音声を解析し、意味を理解し、適切な応答を生成することが可能となります。
自然言語処理は人工知能技術の一分野であり、機械学習やディープラーニングといった技術により実現されるものです。
自然言語処理という名称について
「自然言語処理」という言葉はあまり聞きなれないものであり、表現に違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。なぜ、コンピュータによる言語理解や言語生成は「自然言語処理」と呼ばれるのでしょうか。
そもそも、自然言語とは人間が日常的に使用する言語のことを指す言葉です。「今日もいい天気ですね」「明日は晴れるかな?」といった表現が自然言語となります。
対して、プログラミング言語などの人間が作成した言語のことを、人工言語といいます。たとえば画面に文字を表示するためには「print “Hello”」のように人工言語でコンピュータに指示を与えます。
コンピュータが理解しやすいように、人工言語は曖昧さを排除して明確に設計されています。一方で、自然言語には曖昧な表現や意図が読み取りにくい内容も含まれ、そのままではコンピュータが内容を理解することは困難です。
このような複雑性を持った自然言語を対象として、コンピュータがその意図を適切に解釈する技術として、自然言語処理という名称がつけられています。
自然言語処理が必要である理由
人間の活動をAIがサポートできるようになるためには、人間が利用する自然言語をベースとしたやり取りが求められます。
たとえばチャットボットであれば、「明日の天気について知りたい」といった、人間が自然に入力した文章から、その意図を理解できなければなりません。「明日」とはいつのことで、「天気」とはどのような情報を含むのかを解釈し、適切な対応を行う必要があります。
また、人間に応答を返すためにも、人間が理解しやすい形で文章を作成し、出力する能力が求められます。
このように、AI活用において自然言語処理は必要不可欠であるといえるでしょう。自然言語処理技術の発達がAI活用の幅を広げていくものであり、重要な技術と位置づけられます。
自然言語処理と生成AI
特に近年では、生成AIとしてさまざまな知識を備え、人間の意図に合った出力を作成する技術が注目されています。生成AIもまた、自然言語処理の技術が活用され、実現されたものです。
これまでの自然言語処理は、コールセンターにおけるチャットボットの様に、特定のタスクを実現するために利用されていました。
対して生成AIは、幅広い問いに対して処理を実施することができます。この技術的なバックグラウンドとなっているのが自然言語処理です。生成AIは、自然言語処理技術を活用して大量のデータを学習したAIモデルによってにより実現されています。
このように、生成AIが実現した背景には、長年の自然言語処理研究の積み重ねがあります。
自然言語処理の主な技術
以下では、自然言語処理の技術内容をイメージしやすくするために、自然言語処理の主要な技術について解説します。

形態素解析
形態素解析は、文章を最小の意味単位に分割し、それぞれの単語の品詞や役割を解析する技術です。特に日本語の自然言語処理においては必要不可欠な技術といえるでしょう。
英語などとは異なり、日本語では単語の切れ目が明確ではありません。そのため、コンピュータが自然言語を理解するためには、まず文章を単語に分けてあげる必要があります。
たとえば「今日はここで休みます」という文章であれば、形態素解析により「今日」「は」「ここ」「で」「休み」「ます」という単語に分割されます。
コンピュータが日本語の文章を読み取るための前処理として、まず形態素解析を行う必要があります。
Word2Vec
Word2Vecは、文章をベクトルに変換し、その意味を理解していくための技術です。
単語をベクトル化すると、単語同士の距離を数値として比べることができます。たとえば、「りんご」と「もも」は意味的に近いけれども、「りんご」と「自動車」は意味的に遠いといったイメージです。
一般的に、りんごとももは同じ文章に登場しやすいですが、りんごと自動車は登場しにくいといえます。よって、大量の文章をWord2Vecにより学習することで、単語同士の類似性を把握することができます。
Word2Vecによりこのような関係性を表現することで、機械学習アルゴリズムは単語の意味をより深く理解できるようになります。
Word2Vecの実装例として、検索機能において正確に検索ワードを入力しなくても、近しい意味の言葉を入力すれば関連する検索結果を表示してくれる、といったものが挙げられます。
Transformer
Transformerはニューラルネットワークの一種であり、大規模なデータセットに対して効率的に学習を行うことができるAIモデルです。Transformerは現在の生成AIにつながる技術であり、重要度の高いものといえるでしょう。
なお、ニューラルネットワークとはAIを実現するための手法の一つであり、近年のAI開発において重要な位置を占める技術です。ニューラルネットワークについてより詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
※関連記事:ニューラルネットワークとは?技術概要やディープラーニングとの違いを解説
Transformerはこれまでの学習モデルと比較して大幅に学習時間を短縮でき、かつ精度も高いという点が特徴的です。Transformerが登場した時点では、主に翻訳や要約など、高度な自然言語処理タスクに利用されていました。しかし、Transformerをベースとした研究が進んだことで、後述するBERTやGPTのように生成AIのコア技術への発展へとつながっています。
BERT
BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)は、名称に「Transformers」と含まれているとおり、Transformerを基盤としたAIモデルです。
BERTはTransformerをベースとしつつ、前後双方向の文脈を考慮してテキストを処理することが特徴的です。文の前後関係を理解することで、文脈に基づいたより高精度な処理が可能となりました。
BERTは質問応答や文章分類など、様々な自然言語処理タスクで優れた性能を発揮します。
GPT
現在、ChatGPTの基盤技術として利用されているGPT(Generative Pre-trained Transformer)もまた、Transformerベースのモデルです。
GPTでは大規模なコーパスで事前学習を行うことで、高品質な文章生成が可能となっています。たとえばGPT-3は、約570GBのテキストデータを学習したとされています。
GPTはあらゆる知識を備えた生成AIとして、対話システムや自動要約、創造的な文章生成など、多岐にわたる応用が行われています。
自然言語処理のユースケース
以下では、自然言語処理の主なユースケースをご紹介していきます。
チャットボット
チャットボットは、ユーザーと自然な対話を行うためのプログラムです。自然言語処理によりユーザーからの質問やリクエストを理解し、適切な応答を生成することができます。
チャットボットはカスタマーサポート、自動受付、FAQ対応など、多岐にわたる業務に適用可能です。すでに多くの企業で採用されており、チャットボットが一般的な内容に対応し、例外的なケースのみをオペレーターが対応するといった形で活用されるケースも多く見られます。
さらに近年では、生成AIにより汎用的な内容のチャットボットであれば一から構築せずとも、すぐに利用できるようになりました。また、RAGやファインチューニングといった技術を生成AIと組み合わせることで、個別の目的に合わせて生成AIをチューニングする手法も発展しています。
※関連記事:生成AIの拡張に利用できるRAGとファインチューニング 両者の違いは?
検索エンジン
検索エンジンはインターネット上の膨大な情報からユーザーが求める情報を迅速に提供する仕組みですが、検索エンジンの実現のためにも自然言語処理が利用されています。
たとえばGoogleの検索アルゴリズムでは、自然言語処理によりユーザーの検索クエリの意図を正確に理解し、最も関連性の高い結果を表示することができます。
Google検索では、「自然言語処理 分かりやすく解説」のように単語表現で検索するだけでなく、「自然言語処理を分かりやすく解説しているサイト」のように入力してもユーザーの意図をくみ取って検索結果を表示してくれます。
また、検索結果の表示においても、単なるキーワード一致にとどまらず、文脈や意味を考慮して最もユーザーの検索意図に近いサイトが表示されるようになっています。
これらの処理のいずれにおいても、自然言語処理が活用されています。
機械翻訳
機械翻訳は、異なる言語のテキストを自動的に翻訳する技術です。機械翻訳もまた、自然言語処理の進化により精度が大幅に向上した領域の一つといえるでしょう。
従来のルールベース翻訳では、「りんご」を「Apple」のように単語単位で置き換える方式が一般的でした。しかしながら、近年では前述したTransformerやBERTなど高度な自然言語処理を用いることで、より自然で正確な翻訳が可能となっています。
特に、自然言語処理が前後の文脈を理解できるようになったことで、さらに正確な翻訳が実現されました。これにより、たとえば「はし」のように「橋」とも「端」ともとれる日本語であったとしても、文脈からどちらの意味かを理解し、適切に他の言語に翻訳できます。
まとめ
今回は、自然言語処理について詳しくご紹介しました。現在のAI活用において、自然言語処理は必須技術といえるでしょう。
自然言語処理は高度で複雑な技術ではありますが、形態素解析をはじめとした基本的な概念を理解しておくことをおすすめします。概念を理解することで、AI活用においてもバックグラウンドでどのような処理を行っているのか、具体的なイメージを持ちやすくなります。
本記事を読んで自然言語処理やAI技術に興味を持たれた方は、ぜひ本サイトの他の記事もご覧いただき、より知識を深めてみてください。