タイトル:ニューラルネットワークとは?技術概要やディープラーニングとの違いを解説
ニューラルネットワークは現代のAI技術の根幹となっているものであり、ニューラルネットワークなくして現代のAIの発展はなかったといえるでしょう。第三次AIブームを巻き起こしたディープラーニングや近年話題の生成AIもまた、ニューラルネットワークに関連する技術です。
今回は、ニューラルネットワークについて分かりやすく解説します。
ニューラルネットワークとは
ニューラルネットワークは、AIを実現するための手法の一つです。
AIを実現するための技術的なアプローチは様々存在しますが、そのうちニューラルネットワークでは人間の脳内にある神経細胞を模したモデルを採用しています。
その圧倒的な性能から、近年のAI開発におけるデファクトスタンダードとなっており、重要な位置を占める技術といえるでしょう。
ニューラルネットワークの仕組み
ニューラルネットワークでは、与えられた入力を、神経細胞を模した回路網に通すことで結果を出力します。
たとえば、ある画像がニューラルネットワークに入力されると、90%の確率で「みかん」、10%の確率で「オレンジ」と判断するような仕組みを作ることができます。
これを実現するために、あらかじめ多くの「みかん」や「オレンジ」の画像を学習用データとして用意し、ニューラルネットワークに与えて学習させます。
ニューラルネットワークは学習用データの特徴を学習し、新たな画像が入力された際に「みかん」と「オレンジ」のどちらに近いかを判別できるようになります。
なぜニューラルネットワークは重要なのか
ニューラルネットワークは現代のAI活用において最重要技術ともいえるでしょう。
多くのAI実装にニューラルネットワークが採用されており、特に画像認識や音声認識などの分野で優れたパフォーマンスを発揮します。現代のAI活用において、ニューラルネットワークは不可欠な存在といえるでしょう。
2024年にはニューラルネットワークの発展に貢献したジョン・ホップフィールド氏とジェフリー・ヒントン氏にノーベル物理学賞が贈られるなど、その重要性は計り知れません。
参考:産総研マガジン「2024年ノーベル物理学賞「人工ニューラルネットワークによる機械学習」」
ニューラルネットワークとディープラーニングの関係性
ニューラルネットワークの発展において大きな分岐点となったのがディープラーニングの発明です。
ディープラーニングはニューラルネットワークを利用した技術であり、入力から出力に至るまでの回路網を非常に深いものとすることで、判別精度を高めることができるものです。
2012年に画像認識の世界大会「ImageNet」で発表されたディープラーニングは、他のアプローチに対して圧倒的な性能差を見せつけ、大きな話題となりました。
過去、ニューラルネットワークは技術的な発展に限界がみられており、AI研究においては下火でした。そのような中、ニューラルネットの階層を深くするというディープラーニングの発明により、ニューラルネットは一躍AI研究の中心となりました。
ディープラーニングにより人間と同様の精度で画像認識が行えるようになったことで、いわゆる第三次AIブームと呼ばれる時代が訪れました。AIは実用的な精度で利用できるようになり、企業におけるAI活用も進んでいます。
ニューラルネットワークの利用には大量のGPUが必要に
「AIの活用のためには、大量のコンピュータが必要である」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。その理由は、ニューラルネットワークを深い回路網とするためには膨大な計算を行う必要があるためです。
ニューラルネットワークを構築するためには、特にGPUと呼ばれる計算資源が大量に必要となります。ニューラルネットワークを用いたAI活用が進む現代においては、ハイスペックなGPUを搭載したサーバーが必須であり、AI活用のためにGPUの確保が求められる時代となっています。
ニューラルネットワークの構造
以下では、ニューラルネットワークの基本的な構造と仕組みをご紹介します。
ニューラルネットワークは、大きく「入力層」「中間層」「出力層」の3つで構成されます。
まず入力層にデータを与え、データを中間層に伝播させます。中間層では入力されたデータに対して重みづけを行い、出力層へ伝播させます。最終的に出力層にて判別結果を出力する流れとなります。
入力層
ニューラルネットワークの入力層は、外部からのデータを受け取る役割を担います。たとえば画像認識を行うニューラルネットワークであれば、画像のピクセル情報を入力層に渡すイメージです。
もちろん、全てのピクセル情報を入力すると膨大なデータ量となるため、場合により「特徴量」として画像の特徴情報のみを入力するケースもあります。たとえば「みかん」と「オレンジ」を区別するニューラルネットワークであれば、画像の「大きさ」「色合い」「形状」などが特徴量となるイメージです。
入力層に与えられたデータは、中間層へと伝播されていきます。
中間層
中間層は、入力層から受け取ったデータを処理・変換する役割を持ちます。
中間層では、学習用のデータを用いて、各ノードに適切な重みづけが施されます。それぞれの重みづけは事前の学習に基づき決定されており、入力されたデータを変換していきます。
たとえば、「みかん」と「オレンジ」を区別するニューラルネットワークであれば、学習データからみかんやオレンジの特徴が学習されています。みかんの特徴と合致する入力データであれば、最終的な出力がみかんとなるように重みづけがされていくイメージです。
なお、ディープラーニングではこの中間層を複数階層設定することで、より複雑なパターンを学習することができます。ディープラーニングという名称は、中間層の階層が深くなることから名づけられたものです。
出力層
出力層は、最終的な判別結果や予測結果を出力する層です。前述した「みかん」や「オレンジ」といった分類結果がこの層で出力されます。
入力層から中間層に至る間で重みづけが行われ、最終的には「みかん」の確率が70%、「オレンジ」の確率が30%といったように出力されます。この場合、みかんだと判断できる確率の方が高いため、入力した画像の最終的な判定結果は「みかん」となります。
出力層のノード数は、分類する対象の数に対応しています。たとえば入力された画像を3つに分類する場合は、出力層のノードは3つに設定されます。
ニューラルネットワークの学習方法
ニューラルネットワークを利用するためには、事前に学習データを用いた学習が必要です。学習の実施方法や与えるデータに応じて、ニューラルネットワークの性能は大きく変わってきます。
ニューラルネットワークにおける学習とは、「中間層における重みづけをどのように設定するか」というものです。重みづけが正確になればなるほど、出力層での出力結果の精度が上がります。
以下では、ニューラルネットワークの重みづけを調整するための方法例として、逆誤差伝播法と勾配降下法と呼ばれる2つの手法をご紹介します。
誤差逆伝播法
誤差逆伝播法は、出力層から入力層に向かって誤差を逆伝播させ、各層の重みを調整することでネットワークを訓練する仕組みです。バックプロパゲーションと呼ばれることもあります。
具体的には、まずネットワークの出力と目標値との差を誤差として計算し、この誤差を用いて各ノードの重みを逆方向に更新していく流れとなります。
たとえば「みかん」と判断すべき画像に対して、出力結果が「オレンジ」となってしまったのであれば、その判断の誤りを中間層での重みづけに反映させていくことで、より正確な分類を実現できるようにするイメージです。
勾配降下法
勾配降下法もまた、ニューラルネットワークの最適化手法の一つであり、誤差を最小化するために利用されます。前述した誤差逆伝播法を実施した後、重みを調整するために用いられることが多い手法です。
勾配降下法の基本的な考え方は、ニューラルネットワークの誤差関数の勾配を計算し、その勾配の方向に沿って重みを少しずつ調整していくというものです。
イメージとしては、100の「みかん」の画像のうち、80まで正確に判断できている状況から、90や95の画像を正確にみかんと判断できるように、誤差を減らしていくと理解するとよいでしょう。
勾配降下法では、以下の流れで重みづけを調整していきます。
- ニューラルネットワークの出力と目標値との差を基に、各パラメータに対する誤差を計算する。
- 勾配の方向に沿ってパラメータを更新する。
- 更新されたパラメータにより、ニューラルネットワークの出力を再計算し、新しい誤差を評価する。
- 誤差が十分に小さくなるまで、上記①~③を繰り返す。
主なニューラルネットワーク
ニューラルネットワークの技術的な発展と共に、様々な用途で利用できるニューラルネットワークが開発されました。
以下では、現在のAI開発において主流となっている主なニューラルネットワークをご紹介します。
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)
畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Networks:CNN)は、主に画像データの処理に特化したニューラルネットワークです。
CNNでは、画像の特徴を抽出するために畳み込み層を設けます。これにより、画像内のエッジやテクスチャ、形状などの局所的なパターンを効率的に捉えることができます。
CNNは、画像分類、物体検出、セグメンテーションなどのタスクで非常に高い性能を発揮します。
再帰型ニューラルネットワーク(RNN)
再帰型ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Networks:RNN)は、時系列データの処理に適したニューラルネットワークです。
RNNでは、過去の情報を保持し、現在の情報と組み合わせてニューラルネットワークへと入力します。これにより、時間的な依存関係を考慮した分析が可能となります。
文脈が重要となる自然言語処理や音声認識、また時系列予測などの分野で広く利用されている技術です。たとえば翻訳や要約、文章解析などにおいて活用されています。
敵対的生成ネットワーク(GAN)
敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks:GAN)は、生成モデルと識別モデルの二つのニューラルネットワークを競わせることで、高品質なデータ生成を実現する技術です。
生成モデルに偽のデータを生成させたうえで、識別モデルにそれが本物のデータか偽のデータかを判別させます。生成モデルが作成したデータにより識別モデルの精度が上がると、生成モデルはそれに対抗してより違いが分かりにくい偽のデータを作成していきます。
これを繰り返すことで、生成モデル、識別モデル双方の精度が向上していくという仕組みです。両者が互いに進化することで、最終的には非常にリアルなデータを生成できるようになります。
ニューラルネットワークの活用において課題となるのが「十分なデータが確保できない」というものですが、GANは、データ不足という課題に対する有効なアプローチの一つです。GANは画像生成やデータ拡張といった領域で応用されています。
大規模言語モデル(LLM)
近年、生成AIの活用が進む中で、LLM(大規模言語モデル)はその中核を担う技術の一つとして注目されています。LLMは大規模なデータセットを使用してトレーニングされたニューラルネットワークであり、人間のように言語を理解し、生成する能力を持ちます。
LLMは膨大な数のパラメータを持ち、複雑な言語パターンを学習できるのが特徴です。膨大なパラメータにより、多種多様な自然言語処理タスクにおいて高い性能を発揮することができます。
ニューラルネットワークの活用方法
以下では、ニューラルネットワークの主な用途をご紹介します。
画像解析
画像認識は代表的なニューラルネットワークのユースケースの一つです。
特にディープラーニングの登場により、画像認識の精度は大幅に向上し、「人の目よりも精度高く判別できるAI」が生み出されたことでAIの活用の幅は大きく広がりました。
自動運転や製造ラインでの不良品判別、顔認証によるセキュリティ強化など、様々な用途においてニューラルネットワークが利用されています。
機械翻訳
機械翻訳も代表的なニューラルネットワークのユースケースの一つといえるでしょう。機械翻訳においては、前述のRNNがよく利用されます。
順序を含めた推論が可能であるRNNでは、過去の情報を基に将来を予測することができます。この特性を生かし、これまでの文脈に基づき次に来るべき言葉を予想することで、精度の高い翻訳を実現します。
音声認識
音声認識もニューラルネットワークで実現することができます。
音声認識では、入力された音声データの強弱や周波数、音と音の間隔などをインプットとし、ニューラルネットワークを構築します。
音声認識もまた、ディープラーニングにより大幅に精度が向上した領域の一つです。コールセンターでの自動応答や、スマートスピーカーなど、様々な領域で利用されています。
まとめ
本記事では、ニューラルネットワークの仕組みや重要性、基本構造から具体的な活用例まで、幅広く解説しました。
現代のAIの多くはニューラルネットワークを活用して構築されています。AI活用を進める上では、ニューラルネットワークの概要や特徴について理解しておくことをおすすめします。
近年では、ニューラルネットワークを用いた生成AIの活用も進んでいます。ニューラルネットワーク技術の発展により、生成AIの更なる精度向上やユースケースの拡大も期待されています。ニューラルネットワークは、今後も注目すべき技術分野といえるでしょう。